第9章 監獄の鍵を開く時
?「……どこ行くの?」
肩越しに聞こえた声に、は驚いて振り返った。
そこには、眠たそうな目をした凪が、ジャージ姿のまま立っていた。
「……凪くん……」
凪「もしかして……ここ、出ていこうとしてた?」
は何も言えず、キャリーの取っ手を握る手にだけ力が入った。
すると――
凪「……はぁ……マジで、バカじゃん」
凪の声が低く、少しだけ苛立ちを含んでいた。
凪「なんで、全部自分で抱えてさ。勝手に“ひとりで消える”とかやってんの?」
「……でも、私がいたら……」
凪「“迷惑かけてる”とか思ってるなら、それ、めちゃくちゃ失礼だよ」
凪の口調はゆるいままだ。けれど、明らかに怒っていた。
凪「優しくしてるのは、同情でも、気まぐれでもないんだよ。……俺たちが、“君が好きだから”だよ」
は目を見開いた。
凪「俺、怒ってるよ。マジで。君のこと、ちゃんと大事に思ってたのにさ……君の中じゃ、それって“迷惑”だったんだってことでしょ?」
ゆっくりと歩み寄って、のキャリーを握る手にそっと自分の手を重ねる。
凪「逃げないで。ちゃんとここにいて。……俺、君がいなくなるの、嫌だよ」
怒っている。けど、伝えたいのは「怒り」じゃない。
それは、凪にしては珍しい“感情を込めた願い”だった。