• テキストサイズ

奪い合う光の中で【ブルーロック】

第9章 監獄の鍵を開く時


共有スペースの灯りが落ち、廊下も人の気配がない。
いつもならホッとできるこの静けさが、今夜は息苦しかった。

部屋に戻って、机の引き出しから一枚の紙を取り出す。
上部には小さく「退職届」の文字。

手が、震えていた。

(……みんな、気づいちゃったんだ)

鏡に映った自分の首筋と腕。
どれだけ隠しても、もう隠し通せるようなものじゃなかった。
そして――みんなは、優しかった。心配して、気づいて、声をかけてくれた。

それが……何より、苦しかった。

(“助けたい”って、また思わせてしまった)

優人に捕まった夜のことを思い出す。
何も言えなかった。声も、抵抗もできなかった。

それが――自分の「選んだこと」みたいに思えてきて。

(逃げられなかったくせに。みんなに何も言えなかったくせに)

喉の奥がひりついた。
机に退職届をそっと置く。

(もう、ここにはいられない)

逃げるために来たこの場所で、
いつの間にか「居場所」を得た気になっていた。

でも――それはきっと、思い上がりだったんだ。

(みんなの邪魔になりたくない。誰の足も引っ張りたくない)

“ブルーロック”という場所で、夢を懸けて戦う人たちの中に、自分の居場所なんてない。

静かに、ドアを開ける。
風の音もない夜。
廊下の先の非常口の灯りだけがぼんやりと道を照らしていた。

(ありがとう、みんな。ほんとは、ここにいたかった)

胸の奥がずしんと重くなる。
それでも足を前に出した。

あとはもう、振り返らないだけ――だった。




施設の出入り口。小さなキャリーを引き、はそっとドアノブに手をかけた。
その背は小さく震えていて、足元はまるで雪に沈むように重い。

(……ここを出れば、もう誰にも迷惑かけない)

心の中で何度もそう繰り返しながら、ドアを少し押し開けようとした――そのとき。
/ 175ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp