第8章 甘い拘束
優「“潔くんのポジショニング、自然だった”とか、べた褒めだったよね。俺が話してたのにさ」
声色が変わっていた。
さっきまでの穏やかさはどこにもなかった。
「……ただ、思ったこと言っただけ……」
優人の笑みが、皮肉げにゆがむ。
優「そっか…思ったことを言っただけ、か…。……じゃあ、俺が“あのとき、わざと凪の方見て笑ってた”って思ったとしても、文句言えないよね?」
「……そんなつもりじゃ……」
優「“つもり”の問題じゃないよ。“伝わり方”の問題なの。分かる?」
次の瞬間、ロッカーの扉が「ガン」と鈍い音を立てて閉められる。
その隣に立つ優人の手が、の肩を押さえつけた。
優「さっき、みんなの前で俺のこと見て笑ってたよね?あれ、俺の“彼女”としての演技だよね?」
「……違っ……」
優「嘘つかないでよ」
その目は、もう知っている。
が言葉を呑むことも、黙ることも、怯えることも、すべて計算していたかのように。
優「……ねぇ、。俺のこと、ちゃんと一番に考えてよ。他の誰でもない、俺だけのことをさ」
顔を近づけ、囁くような声で言うその瞬間だけは、まるで甘えている子供のように見える。
けれど――は知っていた。
この後、否応なく続く「罰」を。
優「……ねぇ、今日も、俺の部屋……来てよね?」
それは「選択」ではなく「命令」だった。
は、小さく、ただうなずいた。
笑えなかった。けれど、口元だけは上手に引き上げた。