第8章 甘い拘束
明るい日差しの差し込む共有スペース。
トレーニング後の休憩中、みんながそれぞれの飲み物を片手に、だらけた空気が流れていた。
その中に、ごく自然に紛れるように、優人とがいた。
優「、これ好きだったよね?」
優人が、自分の分のドリンクを差し出す。
は少しだけ目を丸くしてから、かすかに笑って受け取った。
「…ありがと」
優「そっちも冷えてたろ。俺の、あったかいからさ」
さりげない気遣いの言葉。
は口元に笑みを浮かべながら、それをひと口飲んだ。
優人はその様子を見て、どこか満足そうに頷いた。
優「やっぱ似合うよ、その髪型」
「…ほんと?」
優「うん。俺、好きだよ」
彼の指が、の耳元の髪を軽く払う。
自然。とても自然なやり取り。
他人が見れば、普通の、仲のいい恋人
けれど。
その様子を少し離れたところから見ていた潔は、ふと目を細めた。
潔(…なんだろ。角の方で隠れてるようだけど、俺たちに見せつけてるって感じが…それに…さんの“笑い方”が、いつもと違う)
凪もまた、テーブルに頬杖をついたまま、ちらっと二人の様子に目をやる。
凪(…名前呼び、ね。…でも、“見て欲しい”っていう笑い方じゃなくて、“見せなきゃ”って顔)
千切は会話の途中でふと口を止め、手に持ったカップをじっと見つめる。
千切(…俺らが見てる前だから、無理してる…?)
國神は何も言わなかったが、その拳は膝の上でゆっくりと握られていた。
凛(…なんか、ズレてんだよな。言葉と、空気と、あいつの顔が)
誰も確証はない。
ただ“感じた”だけだった。
それでも、全員が同時に感じ取っていた。
そこにあるのは「安心」ではなく、「演技」だったと。
side
(……ちゃんと、笑わないと。周りに、バレたら……また優人が、何か言うかもしれない)
少しでも黙れば「機嫌が悪い」と言われる。
目を逸らせば「隠し事してる」と怒られる。
拒めば「嫌いになったのか」と責められる。
だから、いつの間にか覚えた。
――怖いときほど、笑う。
(大丈夫、私が我慢すれば、いいだけ)
喉の奥がひりついた。
でも、表情筋だけはうまく動かせていた。