第8章 甘い拘束
千切side
トレーニングルームに忘れ物を取りに行こうと、ジムの前を通る瞬間、思わず立ち止まった。
千(……と…黒田さん…?)
器具の間から漏れる微かな気配。
声は聞こえない。けど――視線の先。
2人の影が重なった。
優人が、の顎をクイっと持ち上げ、微笑んだ。
一瞬の静寂ののち、千切の目の前で――唇が重なった。
千「…………っ!!」
息を呑んだ。胸がドクンと跳ねた。
受け入れられなかった。
彼女が、守ろうとしているやつからキスをされている。
それも当たり前のように。
まるで昔からそうしていたかのように。
それが千切は受け入れられなかった。ショックだった。
千(…なんか…すげぇ敗北感…)
目を逸らして、急いでその場を離れた。
その瞬間、心臓の音がやけにうるさく感じた。
千(なに、あれ……なんだよ、あれ……)