第8章 甘い拘束
少し離れたところで、優人が別の選手のケアを終え、タオル片手に近づいてきた。
優「さん、少し時間ある?腰、まだ張ってると思うから、あとで軽く見ようか」
はふと振り向き、自然に――少しだけ微笑んだ。
「……うん。お願い、してもいい?」
それは、どこかで見たことのあるような、“従順な表情”だった。
逆らうでもなく、嫌がるでもなく。
むしろ「頼っている」ようにさえ見える。
潔(……あれ、まるで“恋人みたい”じゃん)
一瞬、そんな考えが脳裏をかすめたが――すぐに打ち消した。
何か違う。そういう“幸せそうな感じ”じゃない。
むしろ、感情が希薄だ。まるで、“納得したふり”をしているような。
凪「……あれ、もしかして、と黒田さんってより戻した…?」
千「は……?」
凪のぼそりとした言葉に、潔と千切が目を見開く。
千「いやいや、それは……だって、あんなに黒田さんのこと避けてたろ?」
潔「でも……今日は、全然違う態度だった」
國「受け入れたってことか……?」
言葉に詰まる。
だが否定できない。
確かに、そう“見える”。
千「……でも、それでいいのか?」
その問いに、誰も即答できなかった。
の背中は、もう優人と並んで歩いている。
あの人懐っこく穏やかな声に、は小さく笑ってうなずく。
その姿が、“受け入れた者”のそれにしか見えなかった。
けれど、潔は気づいていた。
が笑うその一瞬、まぶたがわずかに震えていたことを。
まるで、それを隠すように。