第8章 甘い拘束
――午後。トレーニングが終わったあとの共有スペース。
はいつものように、タオルの回収や用具の整理に動き回っていた。
以前よりもずっと手際がよく、すれ違う選手たちに声をかける余裕すら見せている。
「國神くん、膝少し擦りむいてる。消毒しとくね」
國「あ、ああ……助かる」
「ちゃんと洗ってから絆創膏貼った方がいいよ?傷、残ったら嫌でしょ?」
少し茶目っ気を込めたその言葉に、國神が目を見開く。
前より、柔らかい――というか、笑ってる。ほんのりだけど、ちゃんと。
そのあとも、は千切にも潔にもごく自然に話しかけていた。
「千切くん、飲みすぎ注意だよ〜。ポカリ一気飲みするとお腹冷えちゃうよ」
千「え、なにそれ初耳。……てか、、なんか元気そうじゃん?」
「うん? そりゃ、ちゃんと寝たし、今朝ストレッチもしたし?」
にこっと笑って、まるで何もなかったかのように振る舞っている。
潔「……ほんとに、元気になった?」
「うん。ありがとね、心配してくれて。でももう大丈夫。心配させちゃってごめんね」
潔(……“もう”大丈夫って、どういう意味だ?)
潔は、その言葉に引っかかった。
たしかに笑っている。
たしかに、前より明るく見える。
でもそれは、“心から”じゃない。
どこか、「こうしておかなきゃ」って、決め込んでるような……。