第7章 沈黙の証言
夕方の廊下。
シャワーを終えたばかりのがタオルを片手に自室へ向かっていた。
優「……なあ、ちょっといい?」
その声に立ち止まると、振り返った先には、私服に着替えた優人が立っていた。
顔には笑みを浮かべているものの、目は笑っていなかった。
優「部屋、行っていい? ……少しだけでいいから」
「え……?」
優人は一歩、近づく。
他の誰にも聞こえないように、声を抑えたその話し方は、まるで秘密を共有するような空気を纏っていた。
優「ほら、最近……いろいろ気になってたから。疲れてるの、分かるし」
「でも、今ちょっと……」
優「“ちょっと”でいいって言ってるだろ?」
声のトーンが微かに低くなる。
一瞬、言い返そうとした言葉が喉の奥で止まった。
優「……って、昔からそう。俺のこと避けようとすると、すぐ言い訳から入る。癖、変わってないね」
「……」
優「別に、怒ってるわけじゃないよ。話したいだけ。……俺たち、長く一緒にいたじゃん?」
懐かしさを匂わせるように言いながら、優人はの前に立ちはだかる。
後ろに下がろうとする隙もなく、至近距離で見下ろすように。
優「……ね?いいでしょ?だって潔くんは部屋に入れたじゃん。…ね?」
「……やめて、ください」
言った。
勇気を振り絞って、吐き出した。
けれど――
優「やめる? なにを?」
にこやかに言いながら、完全に冗談のように受け流される。
その“笑顔の仮面”の奥にあるものに、は息が詰まった。
優「……じゃあ今夜。ちょっとだけ。行くから。待ってて」
有無を言わせぬ声音。
そのまま優人は去っていった。
はその場に立ち尽くすしかなかった。