第21章 ズルイヒト♭④-1
今日は遅くなってしまった。
教授に捕まって、資料整理の手伝いをやっていたらこんな時間。車の日で無かったことを悔やみながら、お礼にと渡されたコーヒー缶をポケットに忍ばせて、夜道を歩く。
なんだかいつもより疲れた気がして、携帯を見ながら少し遠回り。普段なら寄らない公園に差し掛かったところで、ふと、気がついた。
あそこにいるのは、先輩と.....愛梨ちゃん。
覗き見なんて趣味悪いとは思いつつも、うっかり立ち止まってしまったんだから、しょうがない...よね?とはいえ、この距離では会話の内容までは分からない。2人とも、僕には気付いて無いようでほっとした。同時に、モヤッとした。
多分、先輩は、愛梨ちゃんに告白するつもりなんだろう。
いや、もうしたのかもしれない。愛梨ちゃんは、どう返事するだろうか。多分、愛梨ちゃんが好きなのは先輩じゃない、とは思っているけど、その先を口にするには、僕は、意気地無しだ。
早く立ち去れば良かったんだ。
もしくは、ここを通らなければ良かった。
愛梨ちゃんが、先輩に抱きしめられた。
その光景に、心臓がドクンと跳ねて、その場から駆け出した。
暫く走って、息が上がって立ち止まる。
呼吸を整えようと、道路脇に身を寄せて、手を膝に付く。
こんなに、動揺するなんて、思ってなかった。
愛梨ちゃんが、先輩を選ぶとは思わない。
でも、100パーセントなんて、どこにも無い。
特に、人の心なんて分からないものなんだから。
知っていたはずなのに、どうしてこんなに胸が痛いんだ。
「はっ......情けないや」
何が、勝てない勝負はしない、だ。
ただ、怖いだけ。
傷ついて、失うのが、怖いだけなんだ。
きちんと言葉にしているであろう、先輩が羨ましい。
どうして僕はこんなに弱いんだろう。
いくら歳を重ねても、経験を積んでも、結局器の小さい人間なんだ。
愛梨ちゃんの隣に居ると、こんな僕でも許される気がする。
キミの言う、自己満足な世界で、僕は甘えてていいんだろうか。
なんだか喉がカラカラだ。
答えが出ないまま、ポケットの缶コーヒーを飲み干す。
それは、凄く苦かった。