第2章 ズルイヒト②-1
「み、美風くん、あの、これ!」
「?」
「あの、先日のお礼....です」
あぁ、と言って、紙袋を受け取る美風くん。
取り出したのは、うちのお店で人気の焼き菓子と栗きんとん。
「へぇ。和菓子屋さんだっけ。水野さんの家」
「う、うん。この間は、ほんとにありがとう...!」
「律儀だね。知人がこういうの好きだから、あげても良い?」
「も、もちろん!ごめんね、逆に迷惑に...」
「いいよ。むしろ助かるかも。お菓子にはうるさい人だから」
わざわざありがとう。と言ってまた研究室のパソコンに向かう美風くん。
今、この部屋には私と美風くんしかいない。
とりあえず、第一関門は越えたようで、一息。
問題はこの後の、彼の方である。
ちらりと、持っていたもうひとつの紙袋を見て、それから時計を見る。
実は、本日の講座が終わったら会う予定なのだが...。
なんでそうなったのか、今でも疑問だが、2人で飲みに行くことになっている。
あの寿くんと。
2人で。
あの寿くんと。
お礼を渡したいから、空いている時間が無いか聞いたら、じゃあその日の夜空けといてね、お店の予約は僕がしとくね~。苦手なものある?と、いつの間にかそんな流れに。
なんだかずっと彼のペースなのだが、こんな機会は二度とないかもしれない。
いつもより少しだけ気合いの入った服装で、講義が終わるのを待つ。
それまで、いくらやっても終わらないレポートの続きを...とは思うが、身に入らない。
あー、うー、と唸り声を上げながら、時計をチラチラ見てしまう。
「ねえ、これからデート?」
「うぇ!?」
とんでもない言葉が聞こえて、声が裏返ってしまった。
それは、私に話しかけているんだろう、声の主は、美風くん。
「で、ででで、でーと!?」
「違うの?いつもより落ち着きが無いようだし、雰囲気も違う。時間を気にしている様子で、僕にくれた紙袋と同じモノがもうひとつ。これから会う確率が高い相手は...」
「わー!わー!」
別に、他の誰かがいる訳でもないから、聞かれてマズイなんてことはないのだが、その先に出るであろう、彼の名前を聞いたら、なんだかダメな気がする。