第2章 ズルイヒト②-1
今、私の顔がどんな風になっているのかは分からない。
だがきっと、心理学なんか学んでなくても、バレバレな顔なのだろう。
きょとんとした顔で、美風くんはこっちを見ている。
「で、デートじゃないよ、ちょっと、ご飯行くだけ...」
「世間では、好意がある年頃の男女の食事は、デートと言う言葉を使う方が多いみたいだけど。レイジが言ってたよ『この後デートだ』って」
「うぇ!?」
また声が裏返る。寿くんにとっては日常茶飯なのかもしれないが、男性経験の乏しい私にとっては、一大事だ。
やっぱりレイジなんだ。と美風くん。貴方が探偵をしたら犯人はすぐに捕まりそうだ。などと考えながら、言葉の衝撃を和らげる。
「レイジとご飯なんでしょ?」
「え、あ、う、うん...」
「そう。レイジ強いから、気をつけてね」
何をですか!?と、もうパニック状態の私に、珍しく、美風くんがクスッと笑った。お酒、飲むんでしょ?と声をかけてくれる。あぁ、そっち、そっちか...と、もう色々恥ずかしすぎて、穴があったら埋まりたい。
「水野さんの書くレポート、面白いよね」
「へ?あ、ありがとう...?」
「中でも、プライミング効果における検証と事例とか」
「え、あ、う、うん?」
何故そんな話を?と思っていたら、携帯が震える。
お待たせ!もうちょっとで終わるよ!の文字に、はっとする。
もうこんな時間だ。慌ててレポートを保存して、パソコンの電源を落とす。
忘れ物が無いか確認して、待ち合わせ場所に行く準備をすます。
手鏡で髪の毛や服装をチェックして、紙袋の中身があるのも確認して、いざ戦場の心持ちで研究室を後に、しようとする所で、ふと立ち止まる。
「あ、あの、美風くん」
「なに?」
「も、もしかして、プライミング効果って...」
クスッと笑って、レポート待ってるね。そう美風くんは言った。
自分の顔がまた赤くなるのがわかる。
お、お疲れ様!と返事だけして、待ち合わせ場所に向かう。
プライミング効果は、簡単に言うと、事前に受けた情報によって、本人の自覚無しで行動に影響が出ること...なのだが。
私は、バッチリ意識してしまっている。
これはデートなのだと。
美風くんの貴重な笑顔を呪ってしまいそうだ。
半泣きになりながら、待ち合わせ場所へと、足を動かした。