第20章 ズルイヒト♭③
「「メリークリスマス!!」」
そんな言葉が飛び交う街を、1人歩く。
本来ならば、ちょっとオシャレなお店で、聖なる夜にふさわしい時間を2人で過ごすつもりだったが、優しい愛梨ちゃんのこと、困っている友人を助ける為に、デートは延期になった。
電話で、それはそれは申し訳無さそうな彼女の声に、全然大丈夫!とは言ったものの、楽しみにしていただけあって、残念ではある。
本当は僕を優先して欲しかった、だなんて言えるわけがないんだけどさ。
でも、その手伝いに、ミューちゃんも居ると知って考えた。
彼女に会いに行こう。それぐらいのワガママなら、バチも当たらないよね?ミューちゃんに連絡をして、仕事が終わりそうな時間を聞いておく。
『俺が知るわけが無かろう。・・・まぁ、目処が経てば、教えてやらんこともない』
の返事に、流石持つべきものは親友(って言ったら怒られるけど)。それで良いので、連絡待ってマース!と寒空を歩く。普段なら、こんな効率悪いことはしないんだけど、どうしても、彼女の顔が見たかった。
キミは喜んでくれるだろうか。ポケットのプレゼントを握りしめて、カップルだらけの眩しい街路に、驚いた顔をするであろう彼女を想像したところで、笑ってしまった。
これが必死になるってことなのかもしれない。
そっか。相手のことを考えるだけで、こんなにも胸が熱くなって、反応が気になって、居てもたってもいられないのか。
ホワイトクリスマスにはならなさそうだけど、それでも吐く息は白い。目的地が見えて、近くで待つ。
早く会いたいな。
中々動かない時計の針を眺めながら、マフラーを蒔き直す。
ミューちゃんから連絡が来た。
『貸しひとつだ』
その文を見た数分後に、待ちわびた人の姿が店から出てきた。
はやる気持ちを抑えて、彼女に近づく。まだ僕には気がついて無いみたい。
「....会いたかったな」
そんな言葉が聞こえてきた。
願望を込めて、その言葉の続きを紡ぐ。
その顔が見たかったんだ。
にやけそうな顔をブイサインで隠したら、愛梨ちゃんが手を握ってくれた。その手が暖かいのは、彼女のカイロのお陰だけではないと思う。
その温もりを逃がさないように、キミの手ごと、僕のポケットにしまい込んだ。