第17章 ズルイヒト♮⑤
そんな事言うなら、私だって、研究と言う名目で、どれだけ嶺二くんに甘えて来たか。
あわよくば、なんて、誰しも持っている事だ。
それを不快に思わせてないなら、それで良い。
「愛梨ちゃんを知るようになって、面白い子だなーって、思ってたんだけど、アイアイにも負けないぐらい研究熱心なトコ、相手に必要な言葉を選んでくれる優しいトコ、集中しすぎて周り見えなくなっちゃう所も....なにより、僕に向かって笑いかけてくれる姿が、どんどん可愛く見えて、困ってた」
本当に困ったように笑うから、私もなんだか困ってしまう。
「愛梨ちゃんの気持ちを知ってたから、どんどんわがまま言って、そして君は受け入れてくれた。それが、いつの間にか手放せ無くなってたんだ」
そう言って、私の手をそっと握る。その小指には、嶺二くんから貰ったピンキーリング。
「ほんとは、ちゃんと言葉にしたら良いんだけど、もし気持ちを伝えて、万が一、違ったらどうしよう、それがきっかけで、離れたらどうしようって」
強く、手を握りしめる嶺二くん。
「怖かったんだ。結婚って話を聞いて、僕じゃない、男の人に笑いかけるのを見て、僕が感じてることが、僕の思い込みかもしれない。それこそ、自己満足なだけだったかもしれない」
まっすぐ、私の目を見る嶺二くん。
その瞳は、あの時と同じで。その瞳に、吸い込まれてしまう。
「ねぇ愛梨ちゃん。臆病者な僕を、助けてくれる?」
逸らせない瞳。
強く、手を握り返した。
「嶺二くんが、好き」
彼の瞳に映る、不安な色を消しさる言葉になれば良い。
「嶺二くんが、大好きです。隣に、居させて下さい」
臆病だと言った彼に、引っ込み思案な私の気持ちが
卑怯者だと言った彼に、伝えるのが下手な私の言葉が
迷子の子供みたいな彼の瞳を、明るく照らす光になりますように