第15章 ズルイヒト♮④-1
それでも、人の心なんて分かるものではない。どんなに仲良くしていても、こと恋愛になると変わってしまうことも事実。
「それで...実はその時に、これを渡そうと思ったのですが...」
そう言って、彼が取りだしたのは
「こ、ここここ婚姻届!?」
「この気持ちを伝えるにはどうしたら良いかと思い、文に認めようかと思ったのですが、溢れ出る想いに長文になるため上手くいかず、生涯かけて愛すことを伝えるには一番良いかと思ったのですが....」
俺のことを知っている奴が、それは辞めておけと止めるもので...。
一度愛梨さんの意見もお聞きしたく。
と、ちょっと困った顔で、私の顔を見ている。
なるほど、真っ直ぐな彼らしい。
どう意見を述べたものか悩んでいたが、彼の不安そうな瞳に、うん、と頷いてにこっと笑った。
「真斗くん」
「はい」
「私と結婚を前提にお付き合いして下さい」
「!い、今なんと...」
お茶を一口飲んで、またにこっと笑った。
「真斗くんがしたかったことって、こういう事になるのかなとは、私は思う」
そう伝えれば、彼はハッとして、考え込む。
「私の気持ちを知ってる真斗くんでも、こう言われたら戸惑っちゃうんじゃないかな?」
「はい」
「だから、結婚を連想させちゃうことより、貴方の事が好きですって、口にして、伝えた方が、相手の子も、想いを伝えやすいんじゃないかな。“想い合っている”ことを、確認してから、婚姻届の事とかはあっても良いと思う。先に、結婚!?って感じちゃったら、びっくりしちゃうかも」
そう伝えれば、少し考えた素振りで、なるほど...と彼は呟いた。
「やはり、自分のこととなると、視野が狭くなってしまうものですね...お恥ずかしい限りです」
「ううん、私の言ってることが正しい訳じゃないし、恋って、正解が無いから、不安になっちゃうよね」
「見合い相手が、愛梨さんで良かった」
あはは!ありがとう。そう言って、お茶を飲む。
自分の気持ちを重ねていることに気付いているので、本当に偉そうなことを言える立場ではないのだが、想いを伝えると決めた真斗くんの真っ直ぐな心が、少し羨ましい。
どうか彼の素直が気持ちが、相手の方に、きちんと届いて報われますように。