第13章 ズルイヒト♮②-2
『今帰りました
美風くんが駅まで送ってくれたよ
嶺二くんも、気をつけて帰ってね
今日はありがとう』
ポーン
『愛梨ちゃん、お疲れ様
今解散になって帰ってるところ!
無事に帰ってて良かったよ
また明日!おやすみ』
投げキッスしてるウサギさんのスタンプが付いてきた。
そんな一つ一つが、なんだか嬉しくてニヤけてしまうが、引っかかるのは、彼女の言葉。研究の一貫とは分かっていても、どこかでそれ以上を期待している。
少なくとも、私は嶺二くんに、気持ちを伝えてない。
もうバレてしまっているような気もするけれど、それを、利用されている、だなんて、思ってはいない。嶺二くんも研究を手伝って欲しいと言っているだけだし、仮に利用しているとしたら、それは私の方だと思う。
嶺二くんが優しいのをいい事に、気持ちを伝えることもしないまま、研究という名の言い訳で関係がある状態だ。それに、両想い...なんておこがましいが、少なくとも、嫌いな相手にこんな甘々にならないだろう...。と、思いたい。
結局のところ、自分の都合の良いように解釈しているが、2人でいる時の嶺二くんの笑顔も、嶺二くんの言葉も、嶺二くんの瞳も、きちんと知っている。
私たちのしている研究は、個人の課題で、卒業までにやり切ればよい内容の1つ。長くても短くても、後一年ぐらいの関係であろう。
気を引き締め直そう。
例え期間限定でも、研究の為でも、どんな結末になっても、今までの時間は嘘じゃない。そっと目を閉じた。
すると、ポーンと、スマホに通知がきた。
『旅行のリベンジ!
次の連休なんてどうかな?
今度はちゃんと、2人っきり』
そういえば、風邪やらなんやらで延期になっていた気がする。
覚えててくれたんだ、嶺二くん。
スケジュールを確認して、大丈夫の返事を送る。
『やったー!愛梨ちゃんを独り占めだ
詳しいことは明日話そう
よろしくマッチョッチョ!』
時折聞く、嶺二くん語録。
その言葉は、とても親しみ安いというか、ちょっと笑顔になれる。
嶺二くんから貰ったものがいっぱいだな。
そんな風に考えながら、リングを付けた指を見て、スマホを閉じる。
桜の季節は、もう少しだ。