第14章 ズルイヒト♮③
『愛梨、あんた、今度の休み空けときなさい』
と、母に言われてやって来た休日。
やっと嶺二くんと旅行だと思って空けておいた日だったのだが、母の余りにも強い念押しに、早々に旅行は断念になってしまい、嶺二くんには平謝りするしか無かった。
そして今、私は『いい感じの料亭』で『着物』を着て『相手』を待っている
察しの良い方はおや?と思うかもしれないが、なんと、今日は、世間で言う『お見合い』と言うものに来ている。
何故こんなことに...と嘆いているが、店で昔からお世話になっている、大きな取引相手の息子さんなので、無下にもできず、本日に至る。
もちろん、私も両親も、結婚なんて本人の自由で、と考えていたのだが、いかんせん祖母が乗り気で、せめて顔合わせだけでも、と、ここに居る。
当日まで、相手は疎か、お見合いだと言うことも知らなかったぐらいなので、余りの出来事に、緊張で冷や汗が止まらない。
こういう時、我が家はやはりかなりの老舗なのだと実感をする。
お相手様、お見えになりました。その言葉に背筋がビシッと伸びる。
縁側の障子が開く。そこから、袴姿の男性が現れて、お辞儀をして目の前に座る。
和装が似合う、きちっと髪を整えた、凛とした男性。
嶺二くんや美風くんとは、また違ったタイプのイケメンさんだ。
そんな風に考えていたら、彼はこう言った。
__お久しぶりです、愛梨さん
そう微笑んだ顔には、見覚えがあった。
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「び、びっくりしました。まさか相手があの時のお坊っちゃまなんて」
「自分も、まさかこのような形で、またお会い出来るとは思っていませんでした」
「初めて会ったの、小学生ぐらいの時でしたっけ?」
「そうです。あの時遊んで頂いたお姉さんとお見合いとは、不思議な縁があるものですね」
私と彼が、思いのほか仲良さげに話すものだから、早々に、後は若者同士で....と、二人で庭園を散歩する。着物に下駄と、普段着慣れない格好なので転けそうになるが、彼がそっと手を出して、支えてくれる。
昔とは違う大きくなった彼の手に、男の子の成長は早いなぁなんて、考えながら。