第13章 ズルイヒト♮②-2
『研究の為じゃ無かったら、一緒にいるわけないか』
酷く、心臓が脈打つ
どこかで分かっていた事だけど、実際に言葉で聞くと、胸が締め付けられてしまう。手をぎゅっと握りしめて、小指のリングに触れる。
その姿を鏡越しに見ているのかいないのか、気にしていない様子で彼女は続ける。
「寿くんってさぁ、誰とでも仲良いし、すっごい優しいんだけど、全然遊んでくれないんだよね。前は二人で飲みに行ったりとかも出来たんだけど、近頃は誘っても忙しいって断られるし、水野さんとは一緒に居るのは見かけるから、なんでだろーって思ったんだけど」
パタン
彼女のポーチが、閉じられる。
「そっかー、研究の為かぁ。水野さんも大変だねぇ。いくら優秀だからって、他の人の手伝いまでして」
「う、ううん、全然、そんな....」
「あれ?水野さん、アクセサリー付けてるの珍しいね」
「あ、う、うん...ちょっと..」
「へぇ~可愛い~」
よし、じゃ戻ろっか!そう言って、彼女はお手洗いの扉を開いて行く、私も慌てて後を追う。お待たせしましたー!と彼女は元気よく席に戻るが、私は何だか笑顔を作るのが難しい。
どうした水野、飲みすぎかぁ~?と聞かれれば、そ、そうかもしれませんと曖昧に返事をして、ウーロン茶をお願いする。届いたウーロン茶も、目の前の食事も進まないまま、ただ、時間がすぎるのを感じていた。
そろそろお開き、という所で、教授のお財布にあざーっす!とお礼を言うメンバーの中、彼女がこっそり話しかけてきた。
「ねねね、水野さん、お願いがあるんだけど」
「...っ、な、何ですか...?」
「水野さんの家って、あの有名な和菓子屋さんってほんと?」
「あ、う、うん、有名かは分からないけど、和菓子屋だよ」
「やった!あのね、実は今度発売される、新作の和菓子が欲しくてさ!それ、確保したりとか、出来ないかな...?」
実はおばあちゃんが凄く好きなんだけど、いつも売り切れちゃって買えなくて...。との言葉に、あまり数が多くなければ、大丈夫だよ、と返事すれば嬉しそうな彼女。やり取りの為に連絡先の交換をする。