第1章 ズルイヒト①
失礼しました。と、部屋の扉を閉めて、はぁーっと、息を吐いて床にへたりこむ。
無事に終わった安心感と、先程からの彼の行動に考えが追いつかないせいで、立ち上がれない。
駅まで、どのくらい距離があると思うんだ。少なくともすぐに行って、帰ってこれる距離では無いはず。
ちゃんとお礼を...!と、目的の人を探そうとするが、荷物を置いてきてしまったのに気付き、意を決して立ち上がる。
居た。私の荷物が置いてある。その場所に、美風くんと、寿くんが居た。
談笑しているのだろうか、私の存在に気づくと、手を振ってくれる。
慌てて駆け寄り、再度、頭を下げる。
『あ、あの!寿くん、美風くん、ありがとう!』
『いやいや~!困った時はお互い様だよん』
『その感じだと、無事に終わったみたいだね』
『う、うん、お陰様で...』
『よし、それじゃ帰ろっか!』
『じゃ、またね。レイジ、水野さんも』
そう言って、スタスタと去っていく美風くん。
もしかして、戻るの待っててくれたのかな...と考えながら、私も荷物をまとめる。寿くんは、まだ、待ってくれているようだ。急いで用意をすませてごめんね、と伝えると、駅までゴーゴー!と笑って返してくれた。
『あの、本当に、ごめんね』
『ぜーんぜん!水野さん、すごい必死で、ずっと探してたから、気になっちゃってさ~』
『そ、そんなに...?』
『うん、もう、この世の終わり!みたいな』
ガーン!と、百面相する寿くんに、私は恥ずかしいような情けないような、申し訳ない気持ちになったが、寿くんは、どんどん話を続けてくる。
美風くんが、私のレポートを面白いと言っていただとか、彼とは高校の頃からの付き合いなんだとか、私に謝る隙を与えることなく、楽しい空気を作ってくれている。
こういう所が彼の凄い所なのだろう。駅に着く頃には、申し訳ないと思わせる空気ではなくなっていた。