第10章 ズルイヒト♮①-1
寒さも和らぎを見せ始める季節。
最初に違和感を感じたのは、いつだったか。
ある日、資料集めに、研究室にいて、パソコンを触っていたら、嶺二くんがアイアーイ、と美風くんとお話していた。
いつもなら、ついでに何かしろ話しかけてくれるのに、その日はこちらを見ようともせず、自分の席に戻っていった。
忙しいのかなと、特に気にも止めて無かったけど、それからは、いつもなら一緒に帰る日も、しばらく別々でと言われるし、こちらから話しかけたら、普通に会話は成立するし、いつも通りの感じなのだが、これは明らかに、避けられている。
笑顔なのは変わらない、周りに人が居て、皆の中心にいるのも変わらないのに、他の研究生の女の子と話している嶺二くんをみて、心がザワザワする。
この気持ちの正体は知っているが、今まで気にもしなかったのに、何故だろう。モヤモヤとザワザワが広がる。気にし過ぎなのかもしれないが、一度考えると止まることをしらない。
「・・・さん、水野さん、聞いてる?」
「へぁ!?み、美風くん...!な、なんでしょう!?」
「さっきから話しかけてるんだけど、大丈夫?顔色悪いよ」
「う、ううん、大丈夫。ごめんね、考えごとしてた」
「それなら良いけど。最近、根詰めすぎなんじゃない?」
「そ、そうかな?まとめの時期だから、ちょっと忙しいのかも」
「また、頑張る方向、間違えないでよね」
パシっと、プリントで頭をはたかれる。勿論痛くもなんともない。
え、えへへ、と苦笑いで返事をする。
それで、ここなんだけど、と美風くんの話に、しっかりと頭を切り替えなきゃと気合いを入れる。
そうだ、研究も終盤なのだ。
だからなのだろう。嶺二くんが離れていったのは。
きっと、元の関係に戻ったに違いない。
そう無理やり思うことで、この胸の痛みを誤魔化した。
彼の視線には、気づかないまま。