第7章 ズルイヒト⑤-2
いつもなら、嶺二くんの近さにドキッとするところだが、触れている手が、嶺二くんの熱の高さを感じて、心配の方が勝ってしまう。
目を瞑って擦り寄っている嶺二くんの顔を見ていると、目を開いて視線がぶつかる。いつもの、心臓が掴まれるようなものではないが、ぼーっとこちらを見ている嶺二くんが、一言。
「....寒い」
「え!さ、寒い?大丈夫...?お布団、まだあるかな...」
部屋を暖めるものを、と辺りを見回そうとするが、出していた手を引っ張られた。わっ!と小さく悲鳴を上げてしまった。
嶺二くんの上に倒れ込んでしまい、そのまま抱きしまられる。れ、嶺二くん?と声を掛けるとあったかい...と声が聞こえる。離れようとするが、離してくれない。んー...と嶺二くんは生返事だ。
ど、どうしよう。この体制は流石に困る。
どうにかして身体を起こそうとするが、行っちゃうの...?と、熱の篭った声が耳元で聞こえては、抗うことも出来ない。
仕方なしに、行かないよ、と声をかければ、んー、とちょっと離れて、布団を広げてくれた。
これは、あれなのか。俗に言う、あれですか。
恐る恐る布団にお邪魔すると、そのままギューッと抱きしめられた。
嶺二くんの腕の中なのと、嶺二くんの匂いに心臓がうるさいのだが、しばらくすると、寝息が聞こえてきたので、一旦落ち着こうと冷静になる。
きっと甘えてくれているのであろう、彼の姿にちょっと安心をして、緩んだ腕の中で、そっと額に触れれば、まだまだ熱は高そうだ。
こんなに近かったら、風邪、移っちゃうかもしれないな。
美風くんに注意してって言われたのに。そう言えば、さっきの男の人、誰なんだろう。
あれこれ考えつつも、このまま抜ける事は出来そうだが、寝息をたてる嶺二くんの顔を見ていると、こちらもウトウトしてしまう。
また、元気になったら、お話たくさんできるかな。
早く治りますように。
そう祈りながら、瞼は閉じていった。