第7章 ズルイヒト⑤-2
「水野さんは元気なら良かった。レイジ、かなり辛いらしいから、タチの悪い風邪引いたんじゃないかって。今年は実家に帰らないって言ってたし、せっかくのお正月なのに、ツイてないね」
もしかして、それは、あの日のせい?
過ぎった考えに、青ざめていく。私のせいかもしれないと思うと、余計にいても立ってもいられず、そわそわしてしまう。
どうしよう、嶺二くんに連絡しようか。いや、彼の性格なら、心配かけるような事は言わないだろう。オロオロしていると、美風くんから提案を受ける。
「お見舞い、行ってきたら?」
「え!?そ、そんな...迷惑なんじゃ...?」
「水野さんなら、大丈夫だと思う。ここからそんなに遠くないし」
「で、でも...」
「一人で倒れてるかもしれないし、様子みてきなよ」
ポチポチっと、美風くんが連絡先交換のついでに、嶺二くんのお家と思われる住所を送ってくれた。じゃあ僕は行くね。あぁ、風邪、移されないように気をつけてね、の一言を添えて、あっという間に帰って行った。
美風くんも、結構我が道を行くタイプだったのを思い出して、どうしようか悩んだ後、意を決して、合流した家族へ言葉を紡ぐ。
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「こ、ここ...かな?」
あの後、家族に事情を話したら、それは大変!と風邪薬やらポカリやらゼリーやら、結構な荷物を持たされて送り出して貰った。
美風くんから貰った住所を何度もナビで確認して、マンションの部屋の前に辿りつく。表札も寿の文字になっていて、ここで間違いは無さそうだが、連絡をしても既読にもならず「倒れてるかも」の美風くんの言葉に不安になって、来てしまったが、やはり軽率だったのではと立ち尽くす。
すると、なんだかドタバタとした音と、男性の声と共に、目の前の扉が開いた。扉の先には、背の高い、目付きがするどい男性。私の姿を見ると、あ?と、ちょっと睨まれたような気がする。その姿にビクッとしてしまって、ああああああの、といつも以上に声がどもってしまった。
「・・・誰だてめぇ?」
「え、あああ、あの、こここ、こ、ここ、寿く....んの、お家....でしょうか...?」
「あ?なんだ、嶺二の知り合いか?」
「し、知り合いと、言いますかその、み、美風くんに、お、お見舞いをと....」