第6章 ズルイヒト⑤-1
「「メリークリスマス!ありがとうございました!」」
はてさて、私はサンタの格好をしてケーキを持っている。
周りには家族連れやカップルの人だかり。
俗に言う『聖なる夜』とやらなのだが、別にコスプレデートをしている訳でもない。親友のお家は1年で1番と言って良いほど忙しい日なのだが、なんとスタッフさんの間で体調不良者が続出し、イヴと、今日の2日間、急遽お手伝いにやって来たのだ。
やることは、予約しているお客様に、予約番号を聞いて品物と交換すると言う、単純作業ではあるのでそんなに難しくは無いのだが、いかんせん、数が多い。それはもう、本当に。
目の回る忙しさに、友人が半泣きで電話をかけてきたことを思い出す。
ちらりと調理場側にいる親友をみると目が合う。ごめんねの、仕草に首を横に振って応える。
皆で遊園地に行ってからは、特に大きい行事もなく、研究して、嶺二くんに帰りを送って貰って、また大学に行って研究して、の繰り返しであった。
言ってた旅行はまだ先になりそうだったのだか、実は、嶺二くんにクリスマスデートやらに誘われていた。お断りの連絡をした旨を友人が知り、ほんとにごめん!と頭がめり込むんじゃないかと思うぐらい謝られた。
嶺二くんは気にしなくて良いと言ってくれたし、それに、実際の恋人という訳でもないので、それほど気にしてはいない。むしろ気になるのは、隣で女性陣の塊の中心にいる、彼の事。
「お待たせ致しました。こちら、ご予約のブッシュ・ド・ノエルでございます。ご一緒にシャンメリーはいかがでしょうか?お嬢様方の素敵な夜のお供になれば、光栄でございます。」
きゃー!と黄色い悲鳴が上がる。
誰だこの人は、と思ってしまうような普段とのギャップに、彼の付けているサンタ帽でさえ輝いて見える。昨日からカミュさんとご一緒させて頂いているが、自分の彼氏なのに気にならないのか尋ねたところ『売上の方が大事』と、商売魂逞しいお言葉を頂いた。
『それに、ちゃんと分かってるから、大丈夫』
と、素敵な惚気もセットで。
なんだか羨ましいと感じる暇もないまま、すいません、と声を掛けられる。
いらっしゃいませ、と後半戦も気を引きしめていく。