第5章 ズルイヒト④
ガラス越しでもわかる、きょとんとする、嶺二くんの顔。
でも、すぐにクスッと笑って
「うん、僕も、そう言おうと思ってた」
優しく微笑んでくれた。
その微笑みは、いつかの時にも見た表情で。
胸が、熱くなるのを感じる。よ、良かった...と呟けば、リベンジ先はどこにしよっか?と会話が続く。
嶺二くんがどう思ってるか分からないし、私の気持ちの終着点も分からないけれど、まだ、何も終わっていない。
心配してくれる友人もいて、大切にしようと思える気持ちがある。
自分を変えるなら、今しか無いかもしれない。
ハロウィンを過ぎれば、あっという間に冬がやってくる。
流れに乗り遅れないように、気合いを入れ直そう。
例えどんな結末になっても、自分を好きになるチャンスだ。
「送ってくれてありがとう」
「どういたしまして!・・・愛梨ちゃん、手、出して」
「う、うん?」
そう言われて、手のひらを差し出す。
すると、恋人繋ぎみたいな形で、指を絡められて、手に、キスされた。
まるで王子様みたいな優雅さに、口がパクパクしてしまう。
「旅行、期待しちゃっても、良い?」
「うぇっ!?」
「あはは、可愛い」
またねー!と、手をヒラヒラさせて、そして去って行く嶺二くんと車。
さっき入れた気合いが、いとも簡単に空回りしてしまいそうだ。
彼の言葉の真意を読み取るには、どれだけ研究を重ねても、足りない気がする。
指先に集まった熱が、中々引かない。
涼しい風の心地良さが、顔も真っ赤な事を教えてくれる。
なんて手強い相手を好きになったんだろう。
また、誰かの言葉を思い出す。
レポートを何文字書けば良いのか分からないまま、お土産を抱え直して、帰宅する。
今日は眠れそうにない...かもしれない。