第5章 ズルイヒト④
彼の瞳が、近づいてくる。
思わず目をつぶってしまうと、おでこに感触があって、気配が遠のく。
ハッとして、おでこを抑えるとクスクス笑っている嶺二くん。
「れ、れれ、嶺二くん...!」
「ごめんごめん、焦ってる愛梨ちゃんが可愛くて」
「え、そ、な、焦って...!」
「これ以上は、研究じゃなくなっちゃうもんね」
その言葉に、胸がキュってした。
「もうすぐ地上だね。ミューちゃん達、どこにいるかなぁ」
「う、うん...」
そうだ。勘違いしちゃいけない。これは研究の為なんだ。
観覧車の扉が開いて、嶺二くんが降りて手を貸してくれる。
一瞬戸惑ったけれど、その手に自分の手を重ねる。
また手を繋いで、歩き出す。
愛梨ー!と、友人の声がして、カミュさんと2人で抱えきれないお菓子を持っているのに笑って、嶺二くんの手をそっと離す。
「ミューちゃん、またお土産買ったの?」
「またとはなんだ。必要経費だ」
「エリアごとにお土産の種類違ったみたいで」
「あはは、沢山買ったね」
もうすぐ閉園、夢みたいな時間も終わりを迎える。
楽しかったねのやり取りをしながら、4人で帰路へと向かう。
胸の痛みには、気が付かないフリをして。
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「あ、後ろの女性陣は、お疲れモードだねぇ」
「....あやつはともかく、貴様に振り回されたヤツには同情する」
「ひっどーい!嶺ちゃん振り回したりなんかしてないもん」
「ふん、どの口が」
うっすらと聞こえてくる運転席と助手席の会話。
大量のお土産に埋もれて、友達と2人で寝てしまったようだ。
緊張していたのだろう、身体が疲れているのか、瞼が開いてくれない。良くないことだと思いながらも、耳は自然と会話に傾く。
「・・・どういうつもりでいる?」
「ん~?何が~?」
「とぼけるな...あやつが心配していた」
「そっか、良いお友達だね」
「...貴様の付き合いに口を出すつもりはないが、軽率な行動は控えろ」
「あれれ?ミューちゃんヤケに優しくなーい?」
「ヤツの菓子が、食べれ無くなっては困る」
「あはは!はいはい、分かってるって。だから睨まないで~」