第1章 ズルイヒト①
そんな自分だが、気になる人はいる。
同じ研究室の、寿嶺二くん。
彼の周りはいつも笑顔が溢れている。私が出来ないことも、まるで息をするかのようにこなしてしまう彼の姿は、とても眩しくて。
同時に、なんだか、ちょっと、怖い存在。
どうして、あんな風に、振る舞えるのだろう。
人は誰しも好き嫌いや、得意・不得意があると思うのだが、彼にしてみれば、全てが不得意で、得意にもみえる。
不穏な空気を察すると、それを変えるのが上手で、誰も傷つかないように、自ら犠牲になるようなこともするが、要領良く、それをプラスに変えているように感じる。
凄いなぁと思うと同時に、底が見えないと言うか、ちょっぴり、怖かった。
そんなことを感じていたから、同じ研究室の仲間とは言え、あまり絡むことの無い人だろうと思っていた。
だから、今、こんな気持ちでいることに戸惑っている。
-------
ことの起こりは研究生1年目のある日。
日差しも和らいで、肌寒くなるかならないかの頃。
教授に渡すはずの大事な書類のデータが入ったUSBを落としてしまって、あちこち探し回っていた。
提出期限が間近で、いくら探しても見つからず、どうしようかと泣きそうな所で、声をかけられた。
『どうしたの?探し物?』
『え、あ、こ、寿くん..??』
『はーい、寿くんでーす!それで、どうしたの?』
『あ、そ、その、落とし物...しちゃって...』
『うんうん。何落としちゃったのか聞いても良い?』
そう言われて、コトの経緯を伝えると、なるほど、こういうのは専門家だ!と、私を研究室まで連れて行くと、そこに居たのは美風くん。