第1章 ズルイヒト①
カタカタ、と鳴り響くのはキーボードの音。
書いては消して、また書いての繰り返し。進まないレポートに頭を抱えながら、画面とにらめっこを続けていると、パチッ、という音と共に、周りが明るくなる。
「み、美風くん...」
「またこんな時間までやってるの?」
扉近くにいる、電気を付けた張本人に、呆れられる。え、えへへ...と、気の抜けた返事に、電気ぐらいつけなよね、と最もなお叱りを受ける。
またやってしまった。集中すると、周りのことが見えなくなってしまう。
「頑張るのは良いけど、方向性間違えないでよね」
美風くんは、なんと言うか、言葉が鋭い。
まるで女の子かと思うぐらい、綺麗な顔立ちから、グサリと突き刺さる言葉が飛んでくる。
美風くんとは同じ研究室の仲間で、心理学について研究している。
「人の心に興味あるんだ」と、自己紹介で言っていた。
私も、興味がある。正確には、この引っ込み思案な自分の性格を、変えられないのか、ということに。
昔から、よく言えばおっとり、悪く言えば要領が悪く、中々周りと馴染むことが出来なかった。
親友と呼べる人はいるし、勉強ができない訳ではないのだが、大きな集まり事や、グループを引っ張る、なんてことはまったく出来ず、教室の隅の方にいるタイプである。
そのせいで苦労したことも多々あり、あまり自分の性格が好きではない。