第5章 ズルイヒト④
「愛梨ちゃんは怖くないの?」
「こ、怖くない訳じゃないんだけど、その、えっと..」
それはもう、がっしり手を繋いで歩いているお陰で、怖いよりもドキドキが勝っている。そっかー、僕ちんは驚かすのは好きなんだけど、驚かされるのちょっと苦手なんだよねぇ、と話している嶺二くん。
私も別に得意では無いが、いちいち驚いている嶺二くんの反応が新鮮で、怖さもあるが、ほっこりもしてしまう。
そんな油断をしていたからか、もうすぐ出口だよ!の声に安心した瞬間に、頭上からお化けが落ちてきた。ひゃあ!と、咄嗟に腕を引っ張ってしまって、うわっ!と嶺二くんの声が更に近くに聞こえる。
しゃがんだ勢いで、尻餅を付いてしまった。
その上から負い被さるような、嶺二くん。
目の前いっぱいの嶺二くんの顔。
もうちょっとでキス出来そうな距離に、みるみるうちに顔が赤くなる。
手を離そうとするけど、焦って解けない。
「ご、ごめんなさい!!け、怪我は無い?」
「いちち...うん、大丈夫だよ。愛梨ちゃんは?」
「だ、大丈夫...!ご、ごめんね、引っ張っちゃったから...」
「お化けじゃなくて、愛梨ちゃんに驚かされるとは思わなかったなぁ」
そのまま嶺二くんに、手を引っ張って起こして貰う。ご、ごめんね、と手を離そうとするが、やっぱり離してくれない。う、あ、て、手を....と唸っていると、ほら、もうちょっとだから行こう!とそのまま引っ張られて、外に出る。
出口では、お化けの格好をしたスタッフさんから、お菓子の詰め合わせが入った、可愛らしい袋を頂いた。
ありがとうございます、と受け取って、先に行っていたカミュさん達と合流する。
2人は手を繋いでいる私達を見て、ちょっと驚いたようだったが、カミュさんの手には既に空になった袋があったことで、嶺二くんのツッコミが入ると共に、手が離れた。
「え、ミューちゃんもう食べちゃったの?」
「全部手に持って歩く訳には行くまい。なんなら貴様の分を預かってやっても構わんが」
「絶対食べる気でしょ!」
「腹に入るだけだ」
「それを食べると言う」
次は何に乗ろうか?今度こそジェットコースター!いや、ここだ。それチュロスの販売店。
と、食べ歩きになりそうな気配を感じながら、さっきまで繋がっていた手を握りしめる。