第4章 ズルイヒト③
「そーんな“名探偵”の嶺二くんが、愛梨ちゃんが今考えてることを当ててあげよう!ズバリ!お腹が空いている!」
「え!いや、そ、そんなに空いてないかな..」
「じゃあ、喉が渇いた!」
「大丈夫...」
「夏と冬なら夏派だ!」
「ど、どっちも良い季節だと...」
「和食と洋食なら?」
「和食かな...家だと和食が多いよ」
「休日は温泉旅行とか!」
「う、うん、良いね、温泉」
「よし、じゃあ決まり!」
「決まり?」
「そう!今度の連休は温泉旅行にしゅっぱ~つ!」
「えええええええ!?」
途中から、探偵とか全然関係ないとは思っていたが、何故そんな話に。
どこの温泉にしようねぇ。と、嶺二くんは色んな場所の候補を挙げている。
まだ名前呼びに慣れるかどうかの段階で、いきなり旅行はハードルが高すぎる。
「れれれ嶺二くん、流石にそれはちょっと...!」
「仲良くなるには旅が一番!...だと思ったんだけど、嫌だった?」
「い、嫌...ではないんだけど、じゃなくて、その、ふふ2人っきりで旅行なんて...!」
「じゃあ皆で行こっか!僕の知り合いなんだけど、愛梨ちゃんも、知ってる子で、誘っても良いかな?」
「そ、それなら...?」
んじゃ決定ー!と、意気揚々と車を走らせる嶺二くん。
まだ名前呼びでさえ追いついてないような状態なのに、いきなり旅行だなんて、展開が早すぎやしないだろうか。これも研究の為か...?と思えば良いのだろうか。そもそも知ってる人って誰だろうか。嶺二くんの話術にやられた感があるが、好きな人に誘われて、きっちり断る勇気も無い。
ほんとに、これは、勉強になる・・・のか?
「...僕は2人きりでも、構わないんだけどね」
「・・・?嶺二くん、今何か...?」
「んーん!なんでもないよ!」
楽しみだねー!とニコニコしている嶺二くんに、う、うん。と同意をするしか無い。そうだ、せっかくなんだから楽しまないと勿体ない。お互いがどう思っていようが、研究の為だろうが、素敵な思い出作りだと思って行こう。
助手席から見る、彼の横顔を盗み見しながら、気持ちを切り替える。
家まで、沢山信号に引っかかって欲しいと願いながら。