• テキストサイズ

ズルイヒト《寿嶺二》

第3章 ズルいヒト②-2





「・・・・」
「・・・そ、」
「そ?」
「そ、そんな風に、できる、寿くんのこと」
「うん」




じっと見つめられる。

しまった、目が、逸らせない。
今、とんでもない事を言おうとした気がして、冷や汗が垂れる。
言葉を詰まらせてしまうのは、良くない。さくっと、尊敬してる、とか言えばよいのだが、美風くんの言葉がチラつく。
さっきまで饒舌だった寿くんは、私の言葉を逃さない、といった雰囲気で、にこにこしながら、見ているだけだ。


言葉を選ぼうとするが、その瞳に見られると、なんだか思考が止まってしまう。にらめっこみたいな形になって、暫く見つめ合いが続く。
もし本当ににらめっこなら、既に、にこにこの寿くんが負けになるのだが、どう考えても勝てている気がしない。


こればダメだと思って、残りのお酒をグッと飲み干す。
意を決して言葉を選ぶ。





「か、かしわもち、みたいだなって思ってます!!!!」



「....ん?」







・・・初めて、寿くんの顔を、間抜けにさせてしまった気がする。







「...おもち?」
「か、かしわ、もち」

「かしわ餅」
「...柏餅」

「和菓子の?」
「わ、和菓子の...」



寿くん、それ以上、穴を掘るのはやめて欲しい。穴の深さを感じて、埋まったら二度と戻れなくなってしまう。
もう、本当に、どうして私はこうなのだろうか。

美風くんの呪いか、はたまた呪ったのは私でその報復か。
答えは神のみぞ知るが、どう考えても、今の雰囲気とはそぐわない単語に、別の意味で顔を真っ赤にさせる私を見て、寿くんは、それはもう、大きな声で笑いだした。



私は手元にある空になったお酒のグラスをみて、新しいお酒を探そうとメニューで顔を隠す。あぁ、なんて世界は無慈悲なんだ。

きっと、色々バレているのであろう、私の気持ちと、この歳になって、褒め言葉にお菓子は無いだろうの意味合いと、仮にも、心理学を研究するものとして、この体たらくはなんだろうの状態で、人生の危機を感じる。



レポートになんてしたら、落第点がついてしまう。
まだ、笑いが止まらなさそうな寿くんに、美風くんへのレポート対策を考えるしか無かった。

/ 102ページ  
スマホ、携帯も対応しています
当サイトの夢小説は、お手元のスマートフォンや携帯電話でも読むことが可能です。
アドレスはそのまま

http://dream-novel.jp

スマホ、携帯も対応しています!QRコード

©dream-novel.jp