第3章 隣のトキヤくん③
「おはようございます」
「.....おやすみなさい」
遅刻しますよ、と声をかけて、シーツに包まっている彼女に起床を促す。蓑虫のように丸まったその姿に思った通りを伝えると、もっと可愛いのにしてぇ...と声だけ返ってくる。はいはい、とこのやり取りも何度目か。
幼い頃から、よく一緒にいる相手を“幼馴染”と呼ぶのであれば、確かに彼女はそう呼べる相手である。自分としては、手のかかる妹、みたいなものだが。それを言うと私がお姉ちゃんでしょう!と変な所で対抗してくる。周りからは私の見解に一致する方のが多いけれども。
自分の朝は、早い方だと思う。
起こさないようにそっと家を出て、習慣である朝のロードワークを済ませ、帰宅してシャワーを浴びてタオルを頭に乗せて出ると、案の定、規則正しい寝息が聞こえたままだ。
以前、一緒にロードワークをしたことがあったが、体力の違いからなのか、その日の授業が睡眠学習になったと申告を受けたのでそれ以来は誘わないようにしている。それでもたまに、彼女の方から申し出が来る時は、共にすることもある。
カチャカチャ
朝食の準備を進めるが、まだ起きてこない所をみると、そうとう昨日の勝負が悔しかったのだろう、遅くまで起きていたせいだなと思う。何度やっても勝てない彼女の姿は面白かったのですが、そろそろ起こさないと、と部屋の時計を確認して、冒頭に至る。
「早くしないと冷めますよ」
「イチゴジャムなら起きる...」
「今日はチョコレートですよ」
え!と、ガバッと起き上がりシーツが舞う。
ボサボサ頭の彼女にブハッと笑いが込み上げるが、声に出すのは控えよう。すぐ起きる!と、さっきまでの微睡みはどこへやら、バタバタと動く彼女の抜け殻を整える。