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隣のトキヤくん

第2章 隣のトキヤくん②


カリカリ

カリカリ


「...あ、そーいえば」
「はい」
「サークル。入るの?」
「あぁ...まだ、悩んでます」
「ふーん...」


カリカリ

カリカリ


「...そこ、違います」
「え、嘘、どこ?」
「綴りが逆です」
「あらほんと」


ゴシゴシ

カリカリ

カリカリ


カラン、とたまに鳴る氷の音と澱みないペンを走らせる音だけが耳に入る。彼の部屋は物が少ない。本棚の一角に、私が持ち込んだカードゲームや、ちょっとした私物が置いてあるが、断じてここに住んではいない。

まぁまぁの頻度で来てはいるが、着替えも下着も歯ブラシも毎回持参している(着替えは怪しいが)。今日は歯ブラシと着替えの出番のつもりで家を出た。あっちもそのつもりなのだろう、お客様用のクッションとタオルケットを用意してくれている。


「...終わったらUNOね」
「おや、連敗中ですよね?」
「今日こそは勝つ!」
「何回?」
「5回!負けたらアイス!」
「コーヒーゼリー。負けませんよ」



にやりと笑う彼に、私も負けじと気合いを入れ、ペンを走らせる。カラン、と氷の音が響く。私もだけど、彼も大概負けず嫌いだ。長年色んな勝負をしてきたが、最近は負け越しが多い。今日こそ勝てたら皿洗いの要望も忘れずにしたい。
勝利の女神はどちらに微笑むのか。



「ご馳走様でした」
「....はーい」



キュッと流しの水を止める。空になった透明のカップを満足そうに分別して捨てている姿を横目に、女神を恨む。あそこで返されて無ければ...とブツブツ言う私に、はいはい、お先どうぞ、と頭をポンポンされる。歳なんて変わらないのに子供扱いしやがって、と負けず嫌いのプライドが湧き上がるが、以前友人に話したら「ただのご褒美じゃん!!有り得ない!」と酷く怒られたようになったので、はーいと返事をして着替えを持って行く。



「水と一緒に運を流さないように」
「...負ける運なら流してきますぅ」


確かに、とクックッと手を当てて笑う奴に、どこがご褒美なんだ!と心の友人に抗議しながらバタン!と扉を閉める。アハハと笑い声が扉越しに聞こえてくる。寝る前の再戦を申し込んでやろうと、シャワーを強めに捻る。


私の幼馴染は、授業中に落書きをして、負けず嫌いで、からかうのが好きで、優しいとこもあって、意外と良く笑う男の子。
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