第1章 隣のトキヤくん①
「相変わらず」
「普通ですよ」
いつも、どこか寄せ付けない雰囲気を醸し出しているであろう隣人の斜め後ろに座る。
理由は簡単。私がちょっかい出しやすいのと、寝てても隠れ蓑にできるから。授業はつまらなくはないが、お昼後の眠気には逆らえない。空調が程よく効いたこの教室では、うつらうつらと頭が下がってしまう。いかんいかんと寝ぼけ眼で彼を視界に入れると、シャーペンを持つ彼の手は澱みなくノートに何かを書いている。
まぁ確かに、整った顔立ちではあるよなぁ。と教授にバレないように彼の姿を見る。後、真面目だよなぁと彼のノートに視線を移すと、はて?文字では無いぞあの動き。と更にシャーペンの先を目で追いかけると、居た。あのペンギンが劇画風になっている。眉毛が太い。
「....っ」
ガンッと机に脚をぶつけてしまい、慌てて周りを見回すが、座っている何人かはこちらを見たようだが、そのまますぐに視線は外れてる。教授には聞こえてないようでほっとしていると、前方の身体からノートが横にはみ出てきた。少し大き目な字で何か書いてある。
『また寝てたんですか?』
ペンギンに吹き出し付きのその文字に、笑い声を挙げそうになるのを堪えて、何度も千切れて薄くなったメモ帳に返事を書いて、コソッと前方に投げる。
『寝てませんー誰かさんの落書きに笑っちゃっただけですー』
『失礼な、落書きではなく芸術だと言ったでしょう』
『眉毛太くない?』
『力作です』
『なんで靴下履いてるのよ』
『身だしなみは足元から』
『ちゃんと授業聞きなさいー!』
『寝てる貴女よりはマシです』
さて、といよいよ彼はノートを元の位置に戻し視線を板書に集中させている。私は笑い声を挙げないよう、そろそろちゃんと聞くかと気持ち腰を浮かせて席に座りなおす。
ほら、こんな一面もあるんだ、カッコ良いとこもあるけど、可愛いでしょ?と先程の友人の質問に心で答えながら、考える。本人には言わないけど。この特別な距離感が好きだから、関係性を聞かれたら、私はやっぱりちょっと距離が近い幼馴染だと言うと思う。
いつか変わる時が来るのだろうか。
この関係がずっと続くかなんてわからないけど、その時が来たらその時考えよう。
教授の声と板書の淡々とした音が響く中、いかにして、夕飯後のおやつをゲットするかを考えながら、今度こそ自分のノートにペンを走らせる。
