第11章 隣のトキヤくん⑪
「....先輩って、彼女いないんですか?」
「お!気になっちゃう~?もう、世の女の子がほっとかなくてねぇ」
「で、実際はどうなんですか?」
「...そういう所、トッキーとそっくりだよね...」
「え、似てませんよ?」
「はいはい、ほんとにこの二人は...」
ブツブツしている先輩をじーっと見て答えを待つ。
やれやれ、といった感じで微笑んでくれた。
「今はいないよ。一緒にいて楽しいって人は居るけど、大切にしたいって人は、まだ居ないかな」
「告白されたりしないんですか?」
「んー、無いことは無いけど、大人には色々あるんだよねぇ」
そう言って、お酒を飲み干す先輩。
これ以上は詮索しない方が良さそうだ。そうなんですね。とだけ返して、星空を見上げる。大切にしたい人か。ふとその言葉が胸に引っかかる。
「....ちょっと2人が羨ましいよ」
「?...何か言いました?」
「別に!さーて、良い子は明日に備えてそろそろ寝なさい」
「先輩は、まだ寝ないんですか?」
「僕はもうちょっとここにいるよ」
お酒の匂いさせてたら、君の幼馴染に怒られちゃうでしょ?と、ウィンクされた。貴方は引率者と言う自覚はあるのですか?と眉間に皺を寄せる彼の姿が浮かんで、確かに、と頷けば、おやすみ、後輩ちゃん。おやすみなさい。と、別れを告げて、その場を後にする。
来た時よりも、足音を立てないように気をつけて歩く。
幼馴染が寝ているであろう、部屋の前に差し掛かる。流石に起きてはいないだろうこの時間だが、なんとなく、立ち止まってしまった。
きっと、予定時間より早く起きて、動き出すに違いない彼の事を考えて、缶コーヒーを見つめる。
さっきのレクリエーション時に、ポケットに入ったままだったサインペンを思い出して、缶コーヒーに記入する。
イチちゃんへ
扉を開けたら見える所に置いておく。他の人に見られるかもしれないが、まぁいっか。と思って部屋へ戻り、そっと布団に入る。
ようやくやってきた眠気を感じながら、今日の出来事を振り返る。サークルの皆さんは楽しい人ばかりだし、勉強の邪魔になるような活動でもなくて、程よく大学生活を彩れる場所だと思う。何より、あの星の輝きは、小さい頃みたプラネタリウムみたいで、見惚れてしまう。
前向きに検討しようと考えて、瞼を閉じた。
楽しい1日に、なりますように
