第11章 隣のトキヤくん⑪
「・・・ってな感じで、研究も結構大変でさぁ」
「へぇ~。先輩なら、ちゃちゃっ!と出来ちゃいそうですけど、やっぱり奥が深いんですね」
「その分、やりがいがあって、楽しいけどね。後輩ちゃんは?大学楽しんでる?」
「楽しいですよ~!勉強はちょっとお小言貰いますけど、新しい友達も出来ましたし、サークルの皆さんは面白いし、誰かさんも楽しそうですし!」
今日は一段と、眉間にシワが寄っていた彼の真似をしながらお伝えする。先輩はアハハ、と笑ったかと思うと、缶を一口飲んで、相変わらずだね、と、なんだか妖艶に微笑んだ。ドキっとして、持っていたカフェオレをグイッと飲み干す。
お、良い飲みっぷり、と先輩も1口のんでいる。
夜の風が涼しくて心地よい。
「・・・2人とも、変わってないねぇ」
「そんな数年で変わらないですよ。先輩だって、ホント昔のまま...じゃないですか」
「な〜んか含みがあるような気がするんだけど」
「気のせいです!」
「変えたいって思わないの?」
「いや、別に...困ることあったら、変わった方が良いかな、って思いますけど...」
「そっかそっか。なるほどねぇ」
そう言って、先輩は1人で頷く。何がなるほどなのかは分からないが、先輩が、納得しているならそれで良い。もう一口飲もうかと思って、空になったことを思いだして、缶を握るに留めた。
「そんな二人が、サークル入ってくれたら、元部長兼お兄ちゃんとしては、嬉しいんだけどなぁ~」
「あ、これ、もしかして賄賂でした?」
「そうそう、一口でも飲んだら、君は入らなきゃいけな...って、そんな訳無いデショ!」
「うーん、もう一本あったら、考えるカナァ」
生意気!と頭をワシワシされる。あ、これも昔良くされた気がする。懐かしさに目を細めて、これで禿げたら先輩のせいですよ、と返せば、こっちならあげる。ともう一本くれた。今度は幼なじみの好きなブラック缶。
ブラック派では無い私だが、流石に強請るようなことを言っておいて、変えろとは言えない。渋々受け取って、封は開けないでおく。
そんな様子をみて、先輩はニコニコしている。
なんだか敵わない。
そんなことを思わせる先輩は、やっぱり憧れの人で、一緒にいてとても楽しい。大学院でもモテるんだろうなぁ、なんて考えながら、ありがとうございます。と伝えておく。
