第10章 隣のトキヤくん⑩
「ちょっと離れただけで全然違うね」
辺りもすっかり暗くなり、コテージを離れて展望スポットへ向かう。似たようなグループも何組かいるのだろう、まだ最終目的地ではないが、人が増えてきたように思う。
「足元に気をつけてね!」
「機材はむっちゃ高いで、慎重に頼むで~!」
「もし壊しちゃったら、部長のポケットマネーでよろしく」
なんでやねん!の声に、サークルメンバーの笑い声が響く。私もアハハと笑って、重そうな荷物を持って歩いている幼馴染を見る。
自分が持つものより、遥かに重いであろう荷物を軽々と持ち歩く姿は、線が細くてもやはり男の子だなぁと、違いを感じる。
幼い頃は力も変わらなかったと思うが、と、自分の手を見つめながら歩いていたのが悪かった。
慣れない山道を、しかも暗がりで歩いているのだ。うっかりと足を引っ掛ければバランスを崩すわけで....
こ、転ぶ...!
「...危ないっ!」
と、すんでのことろで、支えてくれたのは誰かの腕で。
「・・・っ」
「っと、大丈夫?」
「あ、ありがとう、ございます」
支えてくれた人の顔を見て一瞬息を飲む、
「す、すいません、寿、先輩」
「怪我はない?」
がっしりと支えられているのに気付き、思ったよりも近い距離にドキリとする。すぐに体制を立て直して離れる。
にーちゃん大丈夫~?と、周りの人も心配してくれている。う、うん、大丈夫です。と返事。
また転けそうになったら、お兄さんにまっかせなさい!とウィンクをくれる。
う...あ、はい。と曖昧に返事をしてしまう。
さっきのさっきだ。変に意識してしまって、戸惑う。自称兄は、昔はちょっと大人びたガチんちょ、みたいな所があったが、今ではすっかり1人前の男性なんだと、支えてくれた状態を思い出す。
結構がっつりと、抱きかかえられてしまった。
ふわっと広がった匂いは香水なのだろうか。
なんだか大人の香り、と言う感じがして、気恥しい。ブンブンと手を振り。虫でもいた?と言う周りの声に同調して、気を引き締めて歩き出す。
幼馴染みが、それをどんな顔して見ていたのかは、暗くて分からなかった。