第9章 隣のトキヤくん⑨
満腹姿の幼馴染を横目に、今後のスケジュールを確認する。
幸い、朝の起床時間は早くないので、その時にいつものルーティンをこなそうと思うが、夜が遅いので仮眠を取ろうと、動いた所で、イチちゃん!と肩を掴まれた。
「何でしょうか?」
「いや、実は頼みがあってなぁ!望遠鏡設置する台やらが、車の中にあるもんで、一緒に取りに行って貰えんやろか?」
もーしわけない!と、両手を合わせる部長の姿に、分かりました、と返事をする。
車のある場所まで少し距離がある。機材は重い為、男手が必要なのだと理解するが、まぁそうなると、車の鍵を持っているあの人と、また一緒になる。
今度は部長も一緒だが。
「そーいや、イチちゃんとにーちゃんて、付きおーてんの?」
つい先程、目の前を歩いている人からも、同じようなことを聞かれたが、デジャブでしょうか。
ある程度重みを感じる機材を運びながら、いいえ、と答える。はー、そうなんかぁ。と返ってくる。
「あんなに仲ええのに、付きおうてない、て言えるんかぁ。ええなぁ!そらぁもう、愛やなぁ」
「でしょでしょ?昔から、ほんっと、仲良しでさぁ!」
「しっかし、年頃の男女が四六時中一緒におって、なんも無いなんてなぁ!付き合おーってならへんのかぁ」
「そうですね...」
「僕チンだったら、あんなにずっと一緒に居てくれる子、好きになっちゃうなぁ~」
「いやぁ、寿先輩は一途なイメージが、なんちゅーか、あんま無いような...」
「失礼な!こう見えても好きな子は大事にするタイプ!」
とは言っていますが、塾帰りで遅くなると、寿さんが綺麗な女性と歩いていたのを、見た事がある。
何名かは違う人だった気がするので、特定の人を作っているイメージが無い。むしろ、そう思わせているのか。
「わいやったら、好きな女は、ずっと笑わせてやりたいし、一番近くに居りたいし、他の男を近づけたくないなぁ」
「ええ、そうですね」
前を歩くお二人が足を止めてこちらを向く。
...何ですか?と伝えると、お二人で顔を見合わせる。
「幼馴染っちゅーもんは、大変やなぁ」
そう言って再び歩き出す。
・・・言わんとしてることは、多分、察した。
もう答えが出ているかもしれないその問いかけに
正解じゃ無かった場合を恐れている。
まだ夏は、始まったばかりだ。