第5章 隣のトキヤくん⑤
「今日はありがとうございました」
「こちらこそ」
随分遅くなってしまった。特に明日の予定がある訳ではないが、夏の夜は短い。すっかり暗くなってしまったことを詫びつつ、次はアポありでお願いしますと、一言添える。また会って頂けるようで何よりと、笑顔で言われる。うーん、これは世の女性が放っておかないのも無理はないですね、と改めて思い直していると、あ、そうだ、はい。と紙袋を渡される。楽しんできてね、と車を走らせ去っていく。
部屋に入り、貰った紙袋の中身を確認する。
これは確か、数量限定の有名な葛切りでは無いだろうか。中に花や星の形をした、なんとも爽やかな色合いの、夏の期間でしか販売をしていないと聞いた。彼女が中々食べられないと嘆いていたので覚えている。後味がサッパリした、和菓子だ。なんでもお見通しなんですね、またお礼をしましょうと考えて、少し悩んで、目的の宛名をすぐに見つけて携帯に文字を打つ。
『美味しいお菓子を頂きました』
『一緒にいかがですか?』
次の日、私の部屋で目を輝かせながらお菓子を口に運ぶ彼女の姿があった。
ニコニコ笑って、美味しい美味しいと嬉しそうである。はいはい、とお茶のお代わりを置く。
この顔を見たかった、と思う自分に、昨日の彼の言葉が思い出される。
“レディに対する愛だよね?”
恋愛的な意味かは分からないけれど、確かに、そう、なのだろう。いつかこの言葉の意味がわかる時が来るのだろうか。
チリン
葛切りは、なんだか、とても甘い。