第8章 「この夜だけは、嘘をついて」
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学長室を出ると、時刻はすでに深夜を回っていた。
廊下はしんと静まり返り、頭上の蛍光灯が等間隔に並び、磨かれた床に白い光の帯を落としている。
五条は手をポケットに突っ込み、歩き出す。
その背中を、は少し遅れて追いかけた。
「……“ひっくり返す”って、先生……何するつもりなんですか?」
「まだ、さーっぱり。でも、その場のノリと僕のこの天才的な頭脳で、何とかなるでしょ」
その答えに、は思わず瞬きをした。
(……先生に任せて、本当に大丈夫かな)
と半信半疑になった、その時――
ふいに頭上から大きな手が降り、ぽんと叩いた。
「今、本当に大丈夫かって思ったでしょ」
は驚いて顔を上げる。
「い、いや、そんなことは……」
五条は手を引っ込め、首を傾けながら口元に笑みを浮かべる。
「……顔に出てたよ。、わかりやすすぎ」
五条は前を向き直し、歩きながら片手を高く掲げる。
「僕にまっかせなさーい。は、のやるべきことをやればいいんだよ」
あまりに余裕たっぷりなその態度に、は小さく吹き出す。
「……はい。先生を、信じます」
そんなを、五条は横目で満足そうに眺めた。
そして、悪戯っぽく口角を上げる。
「ま、最悪――処刑になったら、僕が上の連中まとめて皆殺しにするから」
「……えっ、それは……」
が言葉を詰まらせたその瞬間、五条はくくっと笑った。
「冗談だよ〜……半分はね」
「……そうならないように、頑張ります」
は苦笑しながらも、胸の奥でそっと決意を固めた。