第24章 「可惜夜に眠る 後編②**」
「……うわ」
「え?」
「五条、今すっごい気持ち悪い顔してるぞ」
硝子が心底引いたような顔をして、僕からすっと一歩距離を置いた。
「ひどいなー。幸せを噛み締めてるだけなのに」
「はいはい。……今日ぐらい、ゆっくり休ませてあげなよ」
硝子の念を押すような言葉。
「分かってるって。僕だって、そこまで鬼じゃないよ」
「……まあ、たまに我慢できなくなるのは仕方ないでしょ。僕も健全な男の子だし」
「お前の場合、たまにじゃないだろ……」
硝子はまた心底嫌そうな顔をして缶ビールを煽った。
「……ま、せいぜい愛想尽かされないように大事にしろよ」
「言われるまでもないって」
砂浜の方で、悠仁たちのはしゃいだ声がひときわ大きくなる。
次の瞬間。
ヒュルルル……! ドーンッ!
波の音を掻き消すように、色鮮やかな打ち上げ花火が夏の夜空に咲いた。
大きな音に弾かれるみたいに、が振り返った。
テラスにいる僕と硝子に気づくと、ぱっと花が咲いたみたいに笑って。
頭上から降る光の粒を背に、こっちへ大きく手を振っている。
僕は手すりから体を離し、彼女に向けて、小さく手を振り返す。
「若人から青春を取り上げるなんて、許されていないんだよ」
「……何人たりとも。いや、何であろうとね」
隣で、硝子が少しだけ優しく笑う気配がした。
夜空に咲いた花火の下で、生徒たちが笑っている。
その輪の中で笑うが、どうしようもなく眩しかった。
こんなふうに笑える夜。
そんな当たり前みたいなものが、どれだけ大事か。
今なら、痛いほどわかる。
(傑。お前もここにいたら)
そこまで思って、なぜか少しだけ可笑しくなった。
(……いや。もう、いるか)
ヒュルルル……ドーンッ!
次の花火が、夜空いっぱいに開く。
砂浜から上がる歓声を聞きながら、僕は少しだけ目を細めた。