第8章 「この夜だけは、嘘をついて」
短い沈黙の後、ふっと小さな笑いが落ちた。
「――そうこなくっちゃ」
五条は片口を上げ、ゆっくりと椅子から立ち上がる。
長身の影がに重なり、その肩を覆う掌が、まるで「ここに盾がある」と告げていた。
「本人が処刑は嫌だって言ってるんだ。僕たち大人は、全力で守らないとでしょ、学長」
静かな声だった。
だが、その奥底には、空気をじわりと締め付けるような張り詰めた気配が潜んでいた。
夜蛾は腕を組み、重く息を吐く。
「……、お前の気持ちはわかった」
目を細め、五条に視線を移した。
「だが、上はそれだけでは納得しないだろう」
会議室に重い沈黙が落ちる。
やがて夜蛾は、低く問いを投げた。
「悟……どうするつもりだ」
五条は、ほんの一瞬だけ笑った。
その笑みは挑発とも、宣戦布告とも取れる。
「――どうするもこうするも、決まってるじゃん。全部、ひっくり返すだけだよ」
夜蛾の眉がわずかに動く。
「……ひっくり返す?」
その言葉の意味を測るように、低く問い返す。
も隣で、わずかに息を飲みながら五条を見上げた。
その視線に応えるように、五条は目線をへと移す。
「上も、伝統も、常識も……運命もね」
そう言って、彼はピースサインをかざしてみせた。
――けれど、その瞳の奥には、いかなる運命にも屈しない“最強”の確信が静かに宿っていた。