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【呪術廻戦/五条悟R18】魔女は花冠を抱いて眠る

第8章 「この夜だけは、嘘をついて」


そこまで言ってから、硝子は視線だけでを捉えた。



「――でも」



声色が、ほんの少しだけ柔らかくなる。



「どうでもいいやつに、あいつはキスしないと思うけど」



思わず顔を上げた瞬間、湯気の向こうで目が合い、の胸の奥が熱く揺れた。


(……それって)


硝子のその一言が、心の奥の柔らかい場所に触れる。
少しだけ、ほんの少しだけ――期待してもいいのかな。
そう思った途端、胸の鼓動がやけにうるさく響きはじめた。







硝子はの頬の赤みを眺めながら、ふと先日の光景を思い出す。




グラウンドを見下ろしていた五条の横顔――


何気なく見ているようだったが、その奥にふっと滲む、やわらかな眼差し。

まるで、大切なものを見つけてしまった人の目。
その視線は、誰に向けられていたのか。


――答えなんて、もうわかっている気がした。




硝子は、ほんのわずかに口元を緩めながら、カップを手に取る。紅茶の香りを一口だけ味わい、静かにテーブルへと戻した。





その時。


こん、こん、と律儀な二度のノックが響いた。
「どうぞ」と硝子が応えると、黒のスーツ姿の伊地知が姿を見せた。



「伊地知、お前も遅くまで大変だな」



硝子がカップを傾けたまま、口元だけで笑う。
その声音には、同情とも皮肉ともつかない温度が混じっていた。


伊地知は、眉尻をわずかに下げて苦笑し、軽く肩をすくめる。



「はは……仕事ですから」



短く返すと、手元の書類を小さく揺らしてへ視線を向けた。



「さん。お疲れかもしれませんが、学長室へご同行ください」



声を少しだけ低くする。



「……査問会のことで、夜蛾学長からお話があります」



その言葉に、は手の中のカップをそっと置いた。
伊地知の落ち着いた声色が、室内の空気を一段重くする。


短く頷くと、彼の背に続いて医務室を後にした。
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