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【呪術廻戦/五条悟R18】魔女は花冠を抱いて眠る

第8章 「この夜だけは、嘘をついて」


***


医務室は、薬品の匂いと消毒液の冷たい空気に満ちていた。
ベッドの端に腰かけると、硝子が椅子を引き寄せ、無言で手袋をはめる。



「口、ちょっと開けて」



促されるままに動くと、コットンに染みた消毒液が、切れた唇の端に触れた。



「っ……」



わずかに沁みる感覚に、身体がわずかに跳ねる。


硝子は表情を変えず、慣れた手つきで手当てを続けた。



「我慢して。すぐ終わるから」



淡々とした声の奥に、ほんの少しだけ柔らかさが滲んでいる気がした。
やがて消毒が終わり、小さな絆創膏が口元に貼られる。



「はい、終わり」



硝子は手袋を外しながら軽く息を吐いた。



「の力……魔導って言うんだっけ?」

「はい、そうみたいです」

「そのせいなのか、には私の反転術式が効きにくい。だから――あまり無茶はするなよ」



落ち着いた声に、は小さくうなずく。



「……はい。気をつけます」



硝子は椅子を少し引き、を正面から見た。



「殴られた以外は? 特に乱暴されてないか」

「大丈夫です……その前に、先生が助けに来てくれたので」



そう口にした瞬間、さっきの廊下での出来事が頭をよぎった。


(……先生、助けてくれたのに)


少し困っていて――どこか驚いたような表情。
きっと私が余計なことを言ったせいで、あんな顔をさせてしまった。


先生にとっては、きっと何でもない、軽いキスのひとつなのかもしれない。
でも、私にとっては……。


唇に残る感覚が、胸の奥をじわじわと熱くする。
思わず視線を落とし、膝の上でそっと拳を握った。


その仕草を横目に見ながら、硝子は短く息をつき、少しだけ口角を緩めた。



「そうか……でも、が諦めて抵抗してなかったら、五条も間に合わなかったと思うよ」



そして、少し声を柔らかくして続ける。



「怖かっただろ。……よく頑張ったな」



その言葉に、の目がじわりと潤む。


さっきまで――もう死んでもいいや、と思っていた自分が、急に恥ずかしくなる。

五条も、硝子も、伊地知も……みんな、自分のことを必死に心配してくれているのに。
それを、自分から手放そうとしていたなんて――。
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