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【呪術廻戦/五条悟R18】魔女は花冠を抱いて眠る

第8章 「この夜だけは、嘘をついて」


呼吸が浅くなって、言葉にすればすべて壊れてしまう気がした。


(……言ったら、全部、終わっちゃう)

(今のままの距離すら、保てなくなるかもしれない)


だから、口を開くのが怖かった。



「先生は……私の、先生で……」

「それだけ?」



その一言に、喉の奥がきゅっと詰まった。


返そうとしたのに、口が動かない。


何か言わなきゃと思うのに、
――次の言葉が、どうしても見つからない。


ただ、心だけがばくばくとうるさく鳴っていた。


何も言えないまま、沈黙が落ちる――。


その空気を、足音が断ち切った。



「……あ、やっと見つけた」



硝子の声。
視界の端に、白衣が揺れる。



「五条、伊地知が探してたぞ」



向き合ったまま、動けない二人。
硝子が眉をひそめる。



「……なにこの空気? なにかあった?」



五条は少し間を置いて、ふっと口元を緩めた。



「硝子、ちょうどよかった。の手当て、頼むわ」



それだけ言って、すっと背を向ける。


その背中に、さっきまでの熱はもうなかった気がした。
なのに、心臓だけがまだ――追いかけていた。


硝子がを覗き込む。



「……大丈夫か?」

「……はい」



かすかに頷くと、肩をぽんと叩かれる。



「ほら、行くぞ」



二人で並んで歩く。
けれど、足取りは重い。



曲がり角を曲がる直前、ふと振り返った。
さっきまで、そこにいたはずの白い影は――
もう、どこにも残っていなかった。
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