第30章 「善意の逆理 Ⅲ」
「大丈夫、!?」
「うん、ちょっと切っただけ」
は傷ついた手を庇うようにしながら、小太刀を構え直した。
けれど、その視線は真澄ではなく、足元のコンクリートの粉に向いている。
「それより野薔薇ちゃん、真澄ちゃんの術式……」
「……おそらくね」
さっきまで壁の形を作っていたはずのコンクリートが、今はただの粉に戻っている。
釘が一瞬で粉々になったこと。
床が砂みたいに崩れたこと。
花が枯れたこと。
それに、崩れたコンクリートの粉を壁のように組み立てたこと。
「真澄の術式は、物質を一度崩して、別の形に組み直すことができる」
真澄の目が、わずかに細くなった。
「……半分正解」
「半分?」
「組み直すには、材料だけじゃ足りないでしょ」
真澄は足元のコンクリートの粉を、指先でそっと撫でた。
「勉強は大事ってこと」
その瞬間、足元に散っていたコンクリートの粉が、ざらりと音を立てて浮き上がった。
細かい破片が空中で寄り集まり、細く、鋭い刃のような形を作っていく。
十数本の灰色の刃が、真澄の周囲にずらりと浮かんだ。
真澄が手を振ると、灰色の刃が雨みたいに一斉に降ってきた。
私は金槌を振り上げ、迫ってきた刃の腹を叩きつける。
ガキンッ!と鈍い音と一緒に、刃の軌道が逸れた。
次々と別の刃が足元を狙ってくる。
視線を向けると、も刃の雨にさらされていた。
「っ……!」
は咄嗟に小太刀を返した。
刃と刃がぶつかり、甲高い音が屋上に響く。
衝撃での腕が大きく弾かれた。
「!」
「問題ない!」
は歯を食いしばって踏みとどまる。
けれど、その足元を狙うように、また別の刃が走った。
私は釘を打ち込み、無理やりその軌道を逸らす。
「くそっ、この術式……近づくこともできないわね」
私の釘は崩されるし。
近づけば、ここにある物質全てが真澄の武器になる。
距離を取っても駄目。
近づいても駄目。
どう攻める。
その時、が私のすぐ横へ滑り込んできた。
刃を避けながら、私の袖を小さく引く。