第30章 「善意の逆理 Ⅲ」
「野薔薇ちゃん」
「何」
私は真澄から目を離さないまま答える。
「さっき、私が跳ね返した刃のひとつが他のものより脆かったの」
「それが何?」
「この前、化学の授業でやったこと……覚えてる?」
化学の授業?
なんだっけ。
……真面目に聞いておけばよかったわ。
「覚えてるわよ。……ぼんやりは」
「同じ材料でも、混ざってるものが違うと、強さが変わるって。少し違うものが混じるだけで、脆くなることがあるって」
「それって、さっきが言ってた脆かった刃っていうのは……」
「たぶん、何か違うものが混じったところだけ、うまく組み直せなかったんだと思う」
「違うもの?」
は、自分の傷ついた手をちらりと見た。
そうだ。
さっき、が破片で手を怪我して……――。
血だ。
怪我した時に、血が床に落ちたんだ。
真澄は術式で崩したコンクリートの床を、刃として組み直した。
でも、そこに別のものが混じっていたら。
形は作れても、強度までは揃わない。
「……なるほどね。混ざり物があると、あいつの再形成は甘くなる」
が小さく、でもはっきりと頷いた。
混ざり物。
要は、コンクリートをコンクリートとして組み直せなくすればいい。
その時、屋上の隅にあるものが視界に入った。
「……あった」
「野薔薇ちゃん?」
「、真澄の気を逸らして」
「十秒なら」
「上等」
私たちの会話に、真澄が眉をひそめる。
「何をこそこそ話してるの?」
「真澄ちゃんには内緒!!」
返事と同時に、が地面を蹴った。
小太刀を構え、真澄へ真正面から飛び込んでいく。
「また同じことをしても無駄だよ」
真澄が片手を上げる。
足元のコンクリートが崩れ、灰色の刃となってへ襲いかかった。