第29章 「善意の逆理 Ⅱ**」
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シャワーを浴びたはずなのに、まだ身体の奥に熱が残っている気がする。
先生に借りた大きなシャツは、袖も裾も余っていて。
枕にも、毛布にも、部屋の空気にも先生の匂いがした。
それだけで安心してしまったのか。
気づけば毛布にくるまったまま、いつの間にか眠っていたらしい。
うとうとしていると、コンコンとノックの音がした。
「……、入るぞ」
扉の向こうから聞こえた硝子さんの声に、びくりと肩が跳ねる。
「あ、はい……」
返事をすると、扉が静かに開いて硝子さんが部屋へ入ってきた。
「寝てたところ、悪いな」
「……いえ」
「気分は?」
「だ、大丈夫です……」
そう答えると、硝子さんはベッド脇の椅子に腰を下ろして、私に小さな錠剤と水の入った紙コップを差し出した。
「これは……?」
「アフターピル。避妊薬だ」
「……っ」
「五条から聞いた。さっきの“治療”のこともな。これを早いうちに飲めば、避妊できる可能性はかなり高い」
私は、手のひらに乗った小さな錠剤をじっと見つめた。
(……そっか)
さっきまで、先生と繋がっていて。
いっぱいの愛をもらって、あんなに幸せだったのに。
これを飲んだら、その証みたいなものがなくなってしまうような。
なんだか、少し寂しいような気持ちになった。
錠剤を見つめたまま固まっていると、硝子さんが私の手元へ視線を落とした。
「飲みたくなかったら、飲まなくてもいいんだぞ」
「……えっ」
顔を上げると、硝子さんが私の様子を窺うように見つめていた。
「飲むかどうかは、が自分で決めていい」
その言葉に、私は慌てて首を横に振った。
「飲みたくないとか、そういうわけじゃ……」
紙コップをぎゅっと握りしめて、視線を落とす。