第29章 「善意の逆理 Ⅱ**」
飲まなきゃいけないことは、分かっている。
それなのに、すぐに口に運べない理由が自分でもうまく言葉にできなかった。
先生は、何かあれば責任を取ると言ってくれた。
その言葉は嬉しかった。
嬉しかったのに。
薬を飲んでしまったら、先生の覚悟を受け取らないと言っているみたいで。
飲まなかったら、先生に全部を背負わせるみたいで。
どちらを選んでも、先生を困らせてしまう気がした。
「。考えすぎ」
硝子さんの声に、私ははっと顔を上げる。
「顔に書いてある。飲んだら五条の覚悟を裏切るんじゃないかって」
「……っ」
「違うからな、それは」
どうして、そこまで分かるんだろう。
硝子さんには、私がうまく言葉にできないものまで見えているみたい。
「…………先生、もし何かあれば責任取るって言ってくれて」
「ああ。聞いてる」
「でも、私……先生を縛りたくない。困らせたくないんです」
特級呪術師で、五条家の当主で。
いつも色んなものを背負っている先生。
そんな先生の足かせにだけは、絶対になりたくない。
「それに……」
紙コップの中の水面が、小さく揺れた。
「まだわかんないんです。その……子供を……持つとか」
高校生の私にとって、それはあまりにも現実味がなくて。
想像もつかないくらい、大きすぎる話で。
「先生のことは好きです。大好きです。でも……今すぐ、そういうことを考えられるかって言われたら、分からなくて」
好きな人の子供。
もしできたら、嬉しいことのはずなのに。
「素直に喜べない私は……先生を、好きじゃないってことなんでしょうか」
先生の覚悟に対して、私は全然追いつけていない気がする。
そんな自分が薄情で、すごく中途半端な子供に思えた。
すると、ふわりと頭の上に温かい手が乗せられた。
「そんなわけないだろ」