第29章 「善意の逆理 Ⅱ**」
唇を離すと、は不満げに目を細めた。
わかりやすく、むぅっと頬を膨らませている。
肝心なことをはぐらかされたのが、気に入らないらしい。
……そんな顔しないでよ。
ちゃんと言うつもりはあるんだから。
だから今は代わりに、少しだけ深く唇を塞いでやる。
「んっ……」
の気がキスに逸れた、その隙を突いて。
僕は彼女がぐるぐると身体に巻きつけているシーツの端を掴んだ。
そのまま、引き剥がそうとすると。
「あっ、ちょ、先生っ!」
が慌ててシーツを押さえ込んだ。
取られまいと、必死に抵抗してくる。
「だめですっ。ここ、医務室ですよ……っ!?」
真っ赤な顔で、僕をキッと睨みつけてきた。
(……いまさら?)
さっきまで、思いきりしてたけど。
それに、この前は執務室でシたでしょ。
そんな言葉が口から出かかったけれど、なんとか飲み込む。
僕は、シーツを握りしめる彼女の手に自分の手を重ねた。
「大丈夫、誰も来ないよ。硝子も僕に一任してくれたし」
「……そう、なんですか?」
「ほんとほんと」
疑うような上目遣いを、最高の笑顔で受け止める。
そして指を滑らせて、彼女の細い手首を掴んだ。
「それに。もう少し治療続けなきゃ」
「……ちりょう……?」
「そ。中和が足りないと、またの魔導が暴走しちゃうかもしれないからね」
息を吐くように、もっともらしい理由を並べる。
完全な嘘ではない。
実際、まだ魔導の揺れは残っている。
ただ、それを口実にしている自覚もあった。
我慢できない自分の欲を、治療という言葉で包み直している。
僕の言葉に、は握りしめていたシーツからふっと力を抜いた。