第29章 「善意の逆理 Ⅱ**」
「……先生は?」
「僕も」
短く答えると、の口が不満そうに尖った。
「……私ばっか……」
すぐ拗ねるんだから。
最近気づいたけど、は結構わがままだ。
でも、そのわがままが。
僕に向けられていることが、どうしようもなく嬉しい。
僕は彼女の頬に触れて、額を寄せる。
「僕も、が好きだよ」
「……っ」
「好き」
もう一度、唇が触れる距離で囁く。
「大好きだよ、」
の瞳が、じわりと潤む。
「……ほんと、ですか……?」
「ここで嘘ついてどうするの」
「……もっと、言ってほしい……」
仕返しのつもり?
そう思ったのに、拒めるわけがなかった。
「好きだよ」
彼女の頬を撫でながら、何度でも言う。
「が好き」
「大好き」
「こんなに人を好きになったことない」
言ってから、自分で少し笑いそうになった。
……何これ。
僕、こんなこと言うタイプだったっけ。
でも、の目がじわじわ潤んで。
泣きそうなのに、嬉しそうに緩んでいくから。
「好きだよ、」
その顔を見るためなら。
その声を聞くためなら。
何度だって言ってもいい。
どちらからともなく、顔が近づいて。
吸い寄せられるように唇が重なる。
言葉にしきれなかった気持ちを、ひとつずつ確かめるみたいなキス。
唇を離しても、すぐにまた触れたくなる。
「「……好き」」
唇の隙間で、どちらが言ったのか分からない声が溶けた。
あまりにも綺麗に重なったものだから、がぷっと吹き出す。
それにつられて、僕も笑ってしまった。
その笑いさえ、すぐにキスの中へ溶けていく。
もう、言葉はいらなかった。
ここが高専の医務室だとか。
扉一枚向こうには、呪いだらけの現実があるとか。
そんなもの、全部どうでもよくなるくらい。
ただ、お互いの中に消えないものを残すように。
僕たちは何度も何度も、深く繋がり合った。