第29章 「善意の逆理 Ⅱ**」
「を助けるためには、ね」
僕の言葉に、が何度かまばたきをした。
少しずつ記憶の糸が繋がったのか、ハッと息を呑む。
「そうだ……っ、わたし、細井先生に襲われて……」
細井。
その名前を聞いた瞬間、腹の底でどす黒い怒りが渦を巻いた。
(……『Re:bloom』の件聞き出したら、あとで絶対に殺す。あと須和も)
湧き上がる殺意を、笑顔の下にきれいに隠す。
僕は不安そうに揺れる彼女の背中を、一定のリズムでさすった。
「そ。の中の『魔導』を落ち着かせるためには、こうするしかなかったってわけ」
まあ、他にも方法はあったかもしれないけど。
でも、あの時の僕には一番確実に思えたし。
僕は彼女の頬を両手で包み込んで、親指で目尻をそっと撫でる。
「心配しないでよ。ちゃんと責任は取るからさ」
「……っ」
は視線をさまよわせて、おずおずと僕を見上げた。
「……責任、って……?」
不安とほんの少しの期待が混ざったような声。
本当は、言葉の意味なんてちゃんと分かっているくせに。
僕の口から、はっきりとした答えが欲しくて。
でも自分からは聞けなくて、探るように僕を見ている。
(……ほんと、可愛いんだから)
そんな顔をされたら、またどうにかなりそうだ。
「責任は、責任だよ」
僕も、あえてはっきりとは言わなかった。
もちろん。
何かあれば、全部背負うつもりだ。
この先のことも。
彼女の身体も、心も、未来も。
その覚悟くらい、とっくにある。
でも、それを今ここで言うのは違う気がした。
彼女が欲しがっている言葉を、雑に渡したくはなかった。
そういうのは、もっとちゃんとしたくて。
……ほら。
僕って意外と、ロマンチストだから。
誤魔化すように、彼女の鼻先にちゅっと短く音を立ててキスをする。